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彼女もまた何かを考えるように俯いていたが、課長でも俺でもない何か遠くを見るような目をして話し出した。
「課長、ごめんなさい、課長の言う通り高坂さんには無理を言って話を合わせてもらいました。私……、まだ課長が好きです。でも、この関係はもう終わりにしたいんです。課長のためにも、私自身のためにも」
「わかった、君にここまでさせてしまって本当にすまなかった。君に辛い想いばかりさせてしまって……、これで踏ん切りがついた。結婚して忘れていた恋愛感情と言うものを思い出すことが出来て良かったよ、ありがとう、若菜。そして今まで君の貴重な時間を拘束してすまなかった。幸せになってくれ」
今にも泣きそうな目と穏やかな声でそう言うと、彼女に頭を下げた。
「……課長」
彼女は薄らと涙を浮かべている。
まじか……。思ってもいない展開に唖然と二人を見つめる。
彼女にとって望ましい展開には変わりはないが、この場にいる俺って必要な存在なのか?課長は嘘だとはじめから嘘だとわかっていたのに。何故俺をここに呼んだんだ?
「奥さんとは……?大丈夫なの?」
彼女も俺の存在を忘れているのか、課長への敬語がなくなっている。
「ん、ああ、なんとか落ち着いたよ。こっぴどく怒られたけどね。来年、名古屋からこっちに来るそうだ」
「そっか……」
「ああ、もう同じようなことは出来ないな、君以外の女性とするつもりもないけどさ。どんな恋愛にしろ別れは辛いから」
はは、と苦笑いを浮かべると、課長は彼女から俺に視線を変えた。
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