第1章

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いつからか、残業終わりにコーヒーが置かれるようになった。 隣のデスクに置かれているから、初めはいたずらかと思った。何故なら、僕の隣は空席だ。 けれど、よくよく考えれば分かる。 雑然とした僕の席には危なくて置けやしなかったのだろう、間違いなく僕のために置かれたコーヒーだ。 それに気づいたとき、きっと僕はよく知らない相手に恋をしていた。 コーヒーはほぼ毎日置かれていた。 片付けしなくて済むように、いつも紙コップ。あまりにも遅くなったときには、そこにキャラメルが添えられていた。 こんな気遣いが出来る人間、この会社にいただろうか? 気づいたときにはその人は既に帰宅していて。一度でいいからちゃんとお礼を言いたいと思っていた。 誰なのかも分からないのに。 キャラメル姫の正体が分かったのは、彼女ーー前野さんのデスクを通り過ぎた時だ。 某有名メーカーの四角いキャラメルが、箱ごといくつかストックされていた。 なかなか売っていないからまとめ買いしている、と打ち明けてくれたのは後に話をするようになってからだ。 ただ、どうしてだか彼女に声を掛けられなかった。
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