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いつからか、残業終わりにコーヒーが置かれるようになった。
隣のデスクに置かれているから、初めはいたずらかと思った。何故なら、僕の隣は空席だ。
けれど、よくよく考えれば分かる。
雑然とした僕の席には危なくて置けやしなかったのだろう、間違いなく僕のために置かれたコーヒーだ。
それに気づいたとき、きっと僕はよく知らない相手に恋をしていた。
コーヒーはほぼ毎日置かれていた。
片付けしなくて済むように、いつも紙コップ。あまりにも遅くなったときには、そこにキャラメルが添えられていた。
こんな気遣いが出来る人間、この会社にいただろうか?
気づいたときにはその人は既に帰宅していて。一度でいいからちゃんとお礼を言いたいと思っていた。
誰なのかも分からないのに。
キャラメル姫の正体が分かったのは、彼女ーー前野さんのデスクを通り過ぎた時だ。
某有名メーカーの四角いキャラメルが、箱ごといくつかストックされていた。
なかなか売っていないからまとめ買いしている、と打ち明けてくれたのは後に話をするようになってからだ。
ただ、どうしてだか彼女に声を掛けられなかった。
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