第四章

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手当を済ませた歩クンは、救急箱に消毒液を片付けながら申し訳なさそうにそう言った。 「らしいな。そんなに山吹と生徒会って関わってたのか」 「はい、中学生の頃に知り合っていた友人だそうで。まあ、先輩方が頻繁に山吹さんを気にかけていたのは友人という理由だけではないんですが」 「あー、その知り合いだったっていうのは聞いたわ。え、山吹を気にかけてた理由って他になんかあんの」 「あるんですけど・・・先輩方個人の話ですし、僕の口から勝手に話さない方が良いかもしれないので黙っときます。たぶん見てたら分かるとは思うんですけど」 個人の話と言われると、確かに本人達がいないところで好き勝手に話すのは気が引けるため追求しないでおこう。 大人しく引き下がり、そういえば、と気になっていたことを歩クンに尋ねる。 「ま、個人の話ならそれ以上聞けないな。そういえばちょっと今日のことで気になったことがあるんだけど」 「なんですか?」 「生徒会って異常な人気があって、高嶺の花みたいっていうのを聞いたんだけど、そんな生徒会が山吹と関わったときに親衛隊からバレないような方法つーか・・・そういうのってできなかったのかなと思ってさ。責めてるみたいで悪いんだけど」 一般の男子校とは環境や雰囲気が全く違っているこの桐島学園は、生徒会の在り方も普通ではなかった。しかし、この環境の中で生徒会に所属している先輩なら、自分たちが異様に注目されていることを自覚しているだろう。 俺から見た生徒会は、テレビとかで見る芸能人的なポジションに立っているように思える。人気のアイドル、俳優が熱愛報道や結婚の報告をすると、ファンを辞める人やファンが熱愛相手や結婚相手に対して誹謗中傷を行うケースがある。つまり、生徒会に特別扱いする人ができた場合、親衛隊の中にもそれを不満に思う奴も出てくることが想像できる。 だから生徒会の先輩方も、生徒会ではない転校生の山吹に近づいたときに親衛隊の事を予想してなにか予防策みたいなのを立てることは出来たのではないかと思ったのだ。 今回の事件に対して思ったことを素直に伝えると、歩クンは少し表情を曇らせた。 「・・・実は、先輩達は親衛隊に転校生と知り合いである事を説明していたんです。山吹さんが食堂で初めて生徒会を会った後に親衛隊を集めて、中学時代からの大切な友人だから一緒にいることを理解してほしい。だから制裁をしないことを約束してほしいと。」 「そうだったのか。あまりにも山吹に対して親衛隊みたいなやつらが敵意むき出しにしてたから・・・」 「はい。親衛隊はその場では納得していた様子だったんです。でも、今まで生徒会から直々に親衛隊に対して制裁をするなというお願いをしたことがなかったんです。だから、ただの友人でも特別扱いしているように思えたんでしょう。」 友人と一緒にいるために他人から許可をもらうということがもうおかしいのだが、この学校には通じないのだろうなと内心あきれてしまう。 でも、生徒会長が駆けつけたときに「なぜ親衛隊が」っていう表情をしていた理由はこれだったんだな。 「その場では良い返事をしても納得してる奴はいなかったってことか・・・」 歩クンは責任を感じているようで、眉間にしわを寄せ足元をじっと見ている。 深刻な表情をしているためそこまで自分を追い詰めなくてもいいのではないかと思うが、生徒会という組織が大きな原因で今回の事件を引き起こしてしまったことから気軽に声を掛けられない。 「・・・そもそも僕たちが甘かったんです。今までの行いを見ていれば、あんな簡単な忠告で親衛隊が言うことを聞いてくれるわけもなかったんですから・・・。」 だから、とその先の言葉を口に発する前に、突然見知らぬ生徒が歩クンの肩に手を置いた。 話に夢中で近づいてくる人に全く気づかなかったため驚きながらも、歩クンの肩に手を置いた生徒の顔を見上げると、こちらと目が合う。 そして、人を馬鹿にしたような表情で口角を上げた。 「だから、丸っきりそのクソ生徒会のせいってことだよなぁ、庶務くん?」
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