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「ドバイル将軍がマイクラ・シテアと一緒にいることも知ってたのに、何の連携もできなかった。
狼煙を使えっていう遺言しか活かせなかった。
結果的に、将軍に四万人殺させた。
死者は全部で六万だってよ」
彼は顔を上げた。
「俺は、リーファもオデュセウスも旦那も、誰一人救えなかった!」
ローブは真っ赤な目を見開き、フェリスを見据えた。
しばらくそのまま固まり、やがて、
「俺は駄目だなぁ」
と、絞り出すように言ってうなだれ、嗚咽した。
フェリスも言葉を失った。
胸が痛かった。
両手を胸の前で組み合わせ、知らないうちに強く握っていた。
どれほど時間が経っただろうか。
ローブの嗚咽が落ち着いた頃、フェリスはようやく言葉を紡ぎ出せた。
「あなたは立派よ」
再び、長い長い沈黙が、狭い講堂を支配する。
果てしなく長い時間が流れていく。
フェリスはローブの横の椅子に腰を掛けた。
そのまましばらく黙っていたが、やがて彼女は言った。
「あいにくだけど、きっと私もあなたもまだまだ、自分達の戦場に生きるしかないのよ。
人っていうのは、きっとそういうものよ」
それは彼女を今まで生かし続けた、野太い声だった。
『ここはお前の戦場だ。
祈るのに飽きたら、何かやって見せろ』
ようやくローブは、目をゴシゴシこすり、頬を左手で二回叩いて、右手の紅茶をぐいと飲んだ。
すっかり冷めていた。
フェリスは立って奥へ行く。
しばらくすると、再び芳しく温かい茶を持って帰ってきた。
カップを手渡し際、
「少なくとも私はあなたが好きよ」
と、穏やかに彼女は言った。
ローブは受け取りながら、少し笑って答えた。
「そういうことは二十年前に言ってくれ」
了
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