第1章

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 ローブがバザを訪れたのは、それから一年半年あまり経った、雪の多い季節だった。  それまでの復興事業は過酷を極めた。 まず第一に、トルキスタ大聖堂という自治政府の中心施設が失われた。 そして、財源もほとんどなかった。 トルキスタ聖騎士団を率いるロドの戦死も、手痛かった。 魔界門の埋め立て作業もなかなかはかどらず、また人々の心の傷も深かった。  ローブは実質的な最高責任者として、様々な手を打った。 まず、資金繰りである。 教皇をはじめとする高位の司教達からは、その私財の大部分を教会に寄付させた。 さらに、貴族や豪商からの寄付も集めた。 融資はそのほとんどを断ったが、敬虔な信者である豪商バッフェからの無利息無期限融資については、これを受けた。  次は大聖堂の再建築だったが、多方面からの強硬な反対を押し切り、規模を五分の一程度に縮小した。 場所はやはり魔界門の上。 余った敷地は、人々の心情を鑑みて民家はなるだけ控え、農園にする方向で決着した。  救いだったのがフォルタの存在だった。 若い副官はやはり優秀だった。 難題をふっかけても、涼しい顔でこなしてくれた。  さらに彼は、母国から友人を呼び寄せてくれた。 マルタである。 「お久しぶりです」 と笑う小柄な青年。 彼は母国バルダでも評判の高い能吏だったが、友人と恩人のため、一年という期限付きで、ザナビルク復興のためにやってきたのだ。  また、もう一つ大きい援助があった。 北の大国ルビアが一万の兵を派遣し、復興支援をした。 その指揮官は、ルビアの首都ボルネットの守将ボルスであった。 「ボルネット陥落の危機を救っていただいたお礼を、今こそ」 という口上に加え、北の竜ガイルの手による丁寧な書状が添えられていた。  これらの援助により、ようやく一年半経って、ザナビルクから離れられた。  ザナビルクからバザへは、馬でひと月近くかかる。 「オデュセウスがいればなぁ」 と、しばしば思う。 しかしあの鋼の馬車は、氷に封じられた魔界門の側で、永遠に眠っている。  バザの被害もひどいと聞いている。 なんと言っても「船」が出現した場所だ。 何千人もが被害にあったと聞いている。
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