第1章

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 教会の重要人物のくせに、例によってローブは一人旅である。 バザの大聖堂には人もいるので、それで十分と考えていた。  バザに着いて、彼がまず向かったのは、大聖堂ではなく、船が出現した市街地だった。 中産階級が住む地域だったが、住む人はまばらで、荒れた印象だった。 船が出現した場所には「毒が残っている」という根も葉もない噂も流れていた。 「ひどいな」  現場には深い穴がそのまま残っていて、巻き込まれた家屋の残骸、あるいは白骨化した遺体も、少し見ただけでもわかるほど数多く残っていた。 「ちゃんと指揮してる奴がいないか」  ローブは深いため息をついて、バザ大聖堂へ向かった。  バザ大聖堂は運良く多少の損壊だけで、普通に利用できる状態だった。 大司教はベーグ。 自決したコロネオの後継者である。 が、残念ながら、平凡な老人に過ぎなかった。 「これは、ローブ殿」  ベーグは少し顔見知りだった。 今や教会最高の実力者であるローブの不意な訪問に、彼は随分驚いていた。 「挨拶はいいから、例の穴、毒の有無を確認するために、二十人、その筋の知識人を明日中に集めてください」 「あ、穴!  しかし、あそこには毒があるという噂が」 「だからその真偽を確かめるんです。  明日ですからね、頼みましたよ」  うろたえるばかりの老人を置いて、ローブはもうきびすを返していた。  彼は内心舌打ちしていた。 「余計な手間が増えたじゃねぇか」  彼が本当に行きたかった場所。 それは、スラム街なのだ。  スラム街へ入って、最初に受けた印象は、他の地域よりも落ち着いている、というものだった。 実に貧しい人々が多いが、しかしそれぞれに可能な仕事をし、清掃を行い、所々に花畑と人々の笑顔が見えた。 「参ったね」  ローブは思わずそう呟く。  やがて目的地に到着した。  粗末な教会である。 少し改修されたらしいが、相変わらず掘っ建て小屋と大差ない。 寄せ集めの材料で、若干傾き、しかし見事に清掃され、花壇の花も生き生きと咲き誇り、底知れぬ美しさを感じた。  ローブはノックもなしに教会の扉を開けた。 酷い建て付けで、今にも外れそうだった。 狭い講堂だ。 相変わらず不揃いな椅子が美しく三つ叉槍の形に並べられ、埃一つないのがすぐにわかる。  気配を感じたのか、奥からパタパタと足音が聞こえた。  フェリスだった。
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