1人が本棚に入れています
本棚に追加
教会の重要人物のくせに、例によってローブは一人旅である。
バザの大聖堂には人もいるので、それで十分と考えていた。
バザに着いて、彼がまず向かったのは、大聖堂ではなく、船が出現した市街地だった。
中産階級が住む地域だったが、住む人はまばらで、荒れた印象だった。
船が出現した場所には「毒が残っている」という根も葉もない噂も流れていた。
「ひどいな」
現場には深い穴がそのまま残っていて、巻き込まれた家屋の残骸、あるいは白骨化した遺体も、少し見ただけでもわかるほど数多く残っていた。
「ちゃんと指揮してる奴がいないか」
ローブは深いため息をついて、バザ大聖堂へ向かった。
バザ大聖堂は運良く多少の損壊だけで、普通に利用できる状態だった。
大司教はベーグ。
自決したコロネオの後継者である。
が、残念ながら、平凡な老人に過ぎなかった。
「これは、ローブ殿」
ベーグは少し顔見知りだった。
今や教会最高の実力者であるローブの不意な訪問に、彼は随分驚いていた。
「挨拶はいいから、例の穴、毒の有無を確認するために、二十人、その筋の知識人を明日中に集めてください」
「あ、穴!
しかし、あそこには毒があるという噂が」
「だからその真偽を確かめるんです。
明日ですからね、頼みましたよ」
うろたえるばかりの老人を置いて、ローブはもうきびすを返していた。
彼は内心舌打ちしていた。
「余計な手間が増えたじゃねぇか」
彼が本当に行きたかった場所。
それは、スラム街なのだ。
スラム街へ入って、最初に受けた印象は、他の地域よりも落ち着いている、というものだった。
実に貧しい人々が多いが、しかしそれぞれに可能な仕事をし、清掃を行い、所々に花畑と人々の笑顔が見えた。
「参ったね」
ローブは思わずそう呟く。
やがて目的地に到着した。
粗末な教会である。
少し改修されたらしいが、相変わらず掘っ建て小屋と大差ない。
寄せ集めの材料で、若干傾き、しかし見事に清掃され、花壇の花も生き生きと咲き誇り、底知れぬ美しさを感じた。
ローブはノックもなしに教会の扉を開けた。
酷い建て付けで、今にも外れそうだった。
狭い講堂だ。
相変わらず不揃いな椅子が美しく三つ叉槍の形に並べられ、埃一つないのがすぐにわかる。
気配を感じたのか、奥からパタパタと足音が聞こえた。
フェリスだった。
最初のコメントを投稿しよう!