第1章

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「ドバイル将軍がマイクラ・シテアと一緒にいることも知ってたのに、何の連携もできなかった。  狼煙を使えっていう遺言しか活かせなかった。  結果的に、将軍に四万人殺させた。  死者は全部で六万だってよ」  彼は顔を上げた。 「俺は、リーファもオデュセウスも旦那も、誰一人救えなかった!」  ローブは真っ赤な目を見開き、フェリスを見据えた。 しばらくそのまま固まり、やがて、 「俺は駄目だなぁ」 と、絞り出すように言ってうなだれ、嗚咽した。  フェリスも言葉を失った。 胸が痛かった。 両手を胸の前で組み合わせ、知らないうちに強く握っていた。  どれほど時間が経っただろうか。 ローブの嗚咽が落ち着いた頃、フェリスはようやく言葉を紡ぎ出せた。 「あなたは立派よ」  再び、長い長い沈黙が、狭い講堂を支配する。  果てしなく長い時間が流れていく。  フェリスはローブの横の椅子に腰を掛けた。 そのまましばらく黙っていたが、やがて彼女は言った。 「あいにくだけど、きっと私もあなたもまだまだ、自分達の戦場に生きるしかないのよ。  人っていうのは、きっとそういうものよ」  それは彼女を今まで生かし続けた、野太い声だった。 『ここはお前の戦場だ。  祈るのに飽きたら、何かやって見せろ』  ようやくローブは、目をゴシゴシこすり、頬を左手で二回叩いて、右手の紅茶をぐいと飲んだ。 すっかり冷めていた。  フェリスは立って奥へ行く。 しばらくすると、再び芳しく温かい茶を持って帰ってきた。  カップを手渡し際、 「少なくとも私はあなたが好きよ」 と、穏やかに彼女は言った。  ローブは受け取りながら、少し笑って答えた。 「そういうことは二十年前に言ってくれ」   了
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