第1章

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世界が狭かった。 生きていくには広すぎる。だけど生きていくには窮屈で退屈。広い世界で膝を抱えた多くの人は胸に当たる、その風を感じていない。 ぽっかりとあいた風穴が文字通り風を通していく。その風は未来圏から吹いている世界を広げ歩みを進める上昇気流ともしらずに。 ただこの世界では息が詰まってしまう。 例えば速く走る、という神様からのギフトを与えられた者はどうなるだろうか? 偶然にも世の中には陸上競技というものが存在している。それが偶然かどうかは知らないが、ただ存在している理由を知ろうともしていないのだから、偶然と表現させてもらう。 その陸上競技、それは世界的に認められた競技であり、その競技で認められる者は世界から認められる。 速く走る、という才能は認められる才能だといえる。 他にも音楽、数学、医学、そういった認められる才能は溢れている。多くの人間は認められるのだ。 身近なところで言えば誰もが受けた義務教育を思い出してほしい。 勉強のできる優等生。 スポーツ万能な生徒。 ピアノが弾ける生徒。 絵の上手い生徒。 習字で金賞をもらった生徒。 話の面白い生徒。 どんな子にも様々な才能があり、ひとりひとりが個人としてその才能を認められる。 だが、掃除の時、雑巾を上手く絞るという才能を持った生徒が素晴らしい才能だと認められるだろうか。そんなことは起こり得ない。 そう、この世界が掃除中心でその掃除の中でも雑巾がけが最もポピュラーで、国民的に愛されている。といった世界でない限りは。 今、世界に必要のない才能は、それこそ才能とは認められない。 あるものしか認めない。そういうことだ。 いっそ掃除の世界にでもなってしまえ。 そんな気分だった。
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