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「ううん、もう少しで読み終わるからここで読んでから帰る。亜希も部活頑張ってね」
「はーいよ。じゃあねー、行ってきまーす」
くせ毛がうねる私の頭をくしゃり、と撫でた亜希に私は手を振り、小走りで教室を出ていった。
そして一人、二人と亜希のように一年三組の教室からクラスメイトが部活へと出て行き、私一人が席に座ったままになった。
五月のこの時期はもう温かくて、一枚だけ開いている窓から気持ちいい風が吹き込んでくる。
教室棟と実習棟は別になっているため、教室や廊下は静かだ。
窓の外からは少しだけれど、人の声が聞こえてくる。
グラウンドの脇にある運動部室棟に向かう人達だろう。
放課後の音に、私はセーラー服の白いスカーフの先を少しだけいじりながら、読みかけの本に目を落とす。
そして多分、数秒後、机の上に置いたハードカバーの小説に、私は音を持っていかれたのだった。
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