魔法‐Unknown‐

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「そんなことより、リンゴ食べるぅ?」 「……」  会話のやり取りなど完全に無視して、内容を全くの別物へとすり替える実菜。会話の流れに多少の違和感を残しながらも、零斗はこの話題に乗っていくことにした。 「あ、ああ。じゃあ、もらおうか」 「はぁい」  軽い返事と共に机の上にポツンと置物のように置かれていたリンゴを手に取り、零斗の目の前に差し出してくる実菜。その動作と呼応するかのように、手の上に乗っかった赤きリンゴは高速回転を開始し、大きさ、重さ、切れ口まで違いの全く感じられない綺麗な八等分状態へと姿を変えていった。  目の前で八等リンゴ片手に微笑む少女は魔法使いだ。それも、食材を扱う割と珍しいタイプの魔法を持っている。  魔法・果実(フルーツ)。  かなり抽象的な名称を授けられたこの魔法は名称の通り、果実を操る魔法だ。本来は果実に限らず、植物の実全般に対して効力を発揮する魔法のようだが、使用対象が果物にかなり偏っていることから、この名称が付けられた。という話を零斗は聞いたことがあった。  清く正しく美しく切られた八等分のリンゴを一つつまみ、なんの躊躇もなく口内へと放り投げる零斗。シャワシャワと甘酸っぱいこの味は、口内の至る所へと広がっていき、白歯によって噛みつけるたびに奏でられるシャリシャリ音はリンゴ本来の甘さを尋常ではないほどに引き立てまくる。  零斗は思う。実菜はカットしただけで、このリンゴを育て上げたのは全く知らないリンゴ農家の方なのだろう。しかし、とりあえずは実菜に感想を述べておくことにしよう。 「相変わらず旨いな」 「まぁねぇ」  なぜか自分で作り上げたリンゴであるかのように自慢げな実菜である。  そんなこんなで、八等リンゴを見事に完食した零斗だが、青年期真っ盛りであるこの腹がリンゴ一個食ったくらいで膨れるわけがない。……ということはなかった。零斗は朝はそんなにガッツリと食べられないという、朝弱身体性能の持ち主だった。  四分の一くらいは膨れた腹を休めておこう。と、思い立った零斗はなんの躊躇もすることなく、ソファにドカッと座り込んだ。そこでなにを思ったか、隣で自分の家のようにくつろぐ少女は若干の戸惑いを見え隠れさせながら、零斗に視線を向ける。
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