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「え、なにぃ? 私、押し倒されちゃう感じ?」
「くつろぐだけだ。誰が押し倒すか!」
激しく否定しながらテレビのリモコンを操作する零斗に向かって、若干距離を取る実菜の乙女な一言が、遠方より投げ入れられた鉄槍のように突き刺さる。
「……それはそれで、少し傷つくんだけど」
シュンと落ち込んだような動作は「明らかに演技だろ」と言いたくなるような不自然極まりない感じだが、声色は本気で落ち込んだような感じだ。出来ることならば、どっちなのかはっきりして欲しい。
「……どうしろってんだ」
「う~ん……、もうちょっとソフトに誤解を解くとか?」
「この会話内容でソフトに誤解を解く術があるのか?」
「そこが実力の見せ所だよぉ」
「……なんの実力だよ。……」
零斗は必死に思考を巡らせ、このいくら考えても答えの見えない無茶振りに答えようと奮闘した。そんなことも知らずに、可愛い猫ちゃんを映し出すテレビに顔を向ける実菜。なんか、押し倒すどうこうの話などどうでもいいように見える。答えを見つけて言い放っても、軽くあしらわれそうだ。
「俺は猫以下だというのか……」
「ん? まあ、可愛さは猫以下だろうねぇ。それより、誤解は解かなくていいのぉ?」
「ああ、誤解……って、ちょっと待てよ。そういえば、俺はなにを誤解されてるんだ?」
「私を押し倒そうとしたこと?」
「それは実菜が勝手に言い出しただけだろう」
「でも、ちょっとは思ったでしょう? 零斗君も男の子だからねぇ。「けしからんおっぱいだなぁ。少し触ってみようかぁ」くらい」
「もし、そう思ったとしても、俺は突然胸を触りたくなるほど性に埋もれてないし、リビングでいきなり押し倒す趣味も無いからな」
実菜は「なぁんだ」と、いやらしく言ってから、「『変態れいとー』って評されるくらいだから、そのくらいは朝飯前かと思ってたんだけどなぁ」
「ちょっと待て。なんだ『変態れいとー』って」
「『冷凍』じゃなくて、『れいとー』ね」
「いや、分かるよ。っていうか、『冷凍』なのか『れいとー』なのかとか、そんなイントネーション云々の問題はどうでもいい。そうじゃなくて、なんでそんなあだ名で評されてるんだ俺は!」
「日頃の行いじゃない?」
「日頃から俺が変態的な行動とってるみたいに言うな。こう見えて、エロ本すら買ったことないんだぞ」
「えっ……」
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