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「……誰に向かって喋ってんだ?」
「就職に悩む者達へ、果物農家への勧誘を」
「地味にカッコいいなあ、おい」
「女HEROはいつの時代もカッコいいんだよぉ。困ってる人の味方だねぇ」
「それなら、俺は女性有利なソフトに困ってるんだ。助けてくれ「それは無理」
実菜の口より放たれたお断りが、アリにロケットランチャーを撃ち込んだかのように零斗の言葉を粉砕した。これに抵抗しようという気が、零斗にはない。どうせお断りかソフトで粉砕され続けるのがオチだろう。もう嘆くしかない。
「……男の言葉は弱いな……」
「そんなことより、もうそろそろいい時間なんじゃない?」
最終的に男の言葉はそんなこと扱いされてしまった。しかし、今回は「安心銀行」でこれから巻き起こるであろう事件の方が、男の言葉よりも明らかに大事だ。ここに対して、不満を募らせるなんてことが零斗には出来なかった。
現在の時刻は、午前八時三十九分。
ここから「安心銀行」までの道のりは、極端に遠くもなければ極端に近いわけでもない、具体的な距離を言えば一キロくらいなので、このくらいの時間に家を出て、のんびり歩いていけば九時過ぎくらいには到着するだろう。
零斗はちゃっかりとトイレを済ませてから実菜と共に家を出た。なにを思うでもなく、なにを考えるでもなく、魔法の使用に魔力を消費するように、酸素を取り込もうと呼吸をするように、普通の一軒家から出ていった。
事情を知らない人が見れば、なんの変哲もない日常だ。そんな場所で過去に殺人事件が起こったなどとは誰も思わないだろう。しかし、その事件は紛れもない事実。
同じ警察官である実菜と共に「安心銀行」へと向かっていく零斗の心に、事件に対する『恐怖』はなかった。
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