魔法‐Unknown‐

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 ……。  鎖狩零斗(さがりれいと)は、重い瞼と闘いながら、汗に濡れた頭を押さえた。  これで何度目だろうか。数え切れない。いや、数えるのすらもう諦めた。脳内に佇み続け、夢としてその姿を現す過去の事件は、零斗の安眠に執拗に襲いかかってくる。  相手は夢だ。そして、記憶だ。抵抗など出来ない。許されない。  十年。前も後ろも右も左も分からない子供が、前と後ろと右と左を理解した大人へと成長するのには十分すぎるほどの時間が流れた。それだけの時間が流れたのだから、当時の記憶など鮮明に覚えているはずはない。一緒に遊んだ友達は誰だとか、流行ってたゲームで勝ったか負けたかとか、そんなことを鮮明に覚えているほど、人間の頭は良くない。  しかし零斗は、鮮明に覚えていた。  いや、忘れることが出来なかった。  それがこの『悪夢』という名の過去。  慣れたから平気だ。と言ったら、嘘になる。こんな記憶、慣れるはずもなければ平気なはずもない。出来ることなら逃げ出したいとさえ思う。全ての記憶を放り出して、死んでしまいたいと本気で考えたこともあった。正直言って、この『悪夢』はツラすぎる。  しかしそれでも、  零斗は、信じられない『悪夢』と向き合った。  零斗は、自分の記憶を現実であると認めた。  ただ一人の『家族』を奪われて、  幼い心に『恐怖』の感情を植えつけられて、  幼い体に二度と味わうことはないであろう『痛み』を刻まれて、  それでも零斗は、真実と向き合った。  そうすることで、今の自分が生まれた。  一つの『望み』を想う鎖狩零斗が生まれた。  『悪夢』を振り払うように勢いよくベッドから降り立った零斗は、この六畳の自室のタオル不在に気付いた。『悪夢』のせいで、顔面は汗びたし。ものすごく気持ち悪い。自分の魔法が、なにもない空間から物を取り出す魔導倉庫(ストール)だったらな。と、たまに思う。  若干のため息を吐き出しながらも、薄い毛布の上に埋まっていたスマートフォンを手に取った。その画面端には、『着信一』の文字が小さく映されていた。画面をスライドさせ、詳細を確認する。イタズラ電話とか迷惑電話の類だったならば、送り主を突き詰めて名誉毀損で訴えてやろうか。と少しだけ思考したが、結果、そのような類ではないことに気づいた。
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