魔法‐Unknown‐

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 五十嵐瀬羅(いがらしせら)。  着信履歴には、そう記されていた。  零斗はこの名前に心当たりがあった。……あってしまった。  この少女、とにかく声がデカい。そしてうるさい。なので、こんな朝早く、しかもあの夢を見た直後。という状況では、嫌でも喋りたくない相手だ。  しかし、瀬羅は同僚、仕事仲間である。日常生活でスマートフォンという現代文明の賜物を放置気味な零斗にとって、それはつまり、同僚からの電話は大抵が仕事の内容。故に、喋りたくないが、そんなわけにはいかない。というジレンマに犯されている。 「あ~あ」  心の奥底より飛び出した嫌な気分を欠伸に乗せて放った。この時、他の同僚に聞く。という一選択肢を導き出した零斗だったが、それだと後から瀬羅がうるさそうなので却下。嫌々通話を開始した。 「お~、電話したかぁ?」 『よっ、零斗。起きるの遅いっての。ってか、異常にテンション低いけど、二日酔いかなにかか?』  テンション低いのは寝起きと悪夢とお前のせいだよ。と、ツッコみたかったが、低テンションがそれを邪魔した。 「……俺は酒とか呑まねぇんだよ。……そんなことより、なんだ? 事件か?」 『ああ、そうそう。今日の午前九時四十三分。川南町の「安心銀行」な』  零斗は咄嗟に携帯を耳から遠ざけ、ディスプレイに目をやった。現在の時刻は午前七時三十三分。現段階では、午前九時四十三分というのは未来の時間帯である。  しかし、そんな未来日記を同僚の口から聞いたところで、全く驚くことではない。なぜなら、それが現実。普通の出来事だからだ。  零斗、そして電話の相手である瀬羅の職業は警察官。しかし、彼らは警察官の中でも、いや、人間の中でも特殊な部類に入る人間である。そんな力を、彼らは持っていた。  魔法。  それは未知の力。非現実的かつ非科学的。ノンフィクションをあざ笑うフィクションの現象。そんなものが、この世界には溢れていた。  発生した時期も分からなければ、発生した理由も分からない。神が与えてくれた神聖なる力だ。とかいう胡散臭い教えを悟る宗教者もいれば、ノンフィクションの現象ならば科学で解決出来るだろう。と研究心を燃やす科学者もいる。
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