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零斗はため息をふんだんに盛り込みながら、「全く意味が分からん」
『Happy?』
「いや、そんな「Realy?」みたいに聞かれてもだなぁ」
『……意外と凡庸性高いんだな、ハッピー』
「……とりあえず、英語圏の方に謝っとけ」
『英語圏? それどこ。近畿地方?』
「……い、いや、なんでもない」
必死に誤魔化す零斗を不思議がるような吐息を漏らした瀬羅だったが、『……あ、ところで零斗。言い忘れてたんだが……』と、あたかも今思い出しましたよ。と言わんばかりの言葉を投げ掛けてきた。
「今度はなんだ?」
『いや、署長が「この事件が終わった後、ワタシの部屋に零斗を連れて来い。頼みがある」みたいなことを言っていたらしいぞ』
「署長が?」
『ああ。署長が』
署長。
彼らの所属する日本警視庁宮崎県警川南警察署の事実上のトップ。どこか威厳があり、部下からの信頼も厚いという上司気質の男だ。
そんな署長が「頼みがある」と言っているのだから、かなり真面目で重要な用件なのだろう。加えて零斗には、なぜ川南警察署に所属する実績ある刑事ではなく、十八歳のいわばルーキーである自分に頼む必要があるのか。という疑問が募っていた。
それに、署長には絶対的な恩があった。零斗の人生さえ左右したかもしれない絶対的な恩。故に、断ることが出来ず、素直に了承した。
「……分かった。何用かは知らないが、署長には逆らえないしな」
『じゃ、伝えたからな。ド忘れしてあたしのせいにするなよ』
「ああ、分かってるって。というか、どうせ現場で落ち合うんだし、言うならばその時でも良かったんじゃねぇか?」
『うぁ、そうだった。今じゃなくてもいいじゃん』
バカだなぁ……。
「じゃ、準備するから切るぞ」
『え、マジで二日酔いのまま行くのか?』
「しつこい」
心の叫びを前面に押し出しながら通話をシャットアウトした零斗は、瀬羅の声が全く届かなくなったスマホと、机の上にポカンと置かれていた財布を手に取った。
静まり返った室内。電話の向こうで瀬羅が騒いでいるわけでもなければ、外からクソうるさいガキの声が聞こえてくるわけでもない。
あの時と同じ静寂。浮かび上がりそうな過去。
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