ベイビー・アイ  神谷信二

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トイレまで泣き声は聞こえていたのか、夫は慌てた様子で帰ってきた。 「どうした?大丈夫か?」 「おぁあああああああああ」 「うん、大丈夫」 私は泣き叫ぶ娘をギュッと抱きしめる。 「美香がこんなに泣くなんて珍しいな。なんか今まで我慢してたんじゃないかってくらいの泣きっぷりだな」 娘の泣き声を聞いた時、5年前の娘の生まれ変わりだと確信した。 この子はずっと覚えていた。 私の温もりも、私の笑顔も、私の涙も。 それを失いたくないから、壊されたくないから泣くのをずっと我慢していたんだ。 それが分かった時、先程までの恐怖とは別の温かい感情が湧き上がってくるのを感じた。 どれだけ泣いても構わない。 寝不足になったっていい。 喋れるようになったらワガママ言ってもいい。 育てやすいとか育てにくいとか関係ない。 あなたにとってママは1人。 あなたは必ずママが守るから。 5年前の行為があなたを立派に育てる事で許されるとは思わない。 それでも、ママはあなたのママだから。 あなたの可愛い目に映るのは私だから。 「なぁ、美香がこんなに泣くっておかしくないか?病気じゃないのかな?」 私に不安そうに尋ねる旦那に、私は笑顔で応える。 「コレが本当の美香だから大丈夫。私達2人なら、この子を幸せに出来る」 5年前から始まった懺悔の時間は、幸せを築く為の時間に変わった。 END
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