憂い

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窓から射し込む柔らかい光で目を覚ます。 (…働くとは言うたものの、好きでもないことでお客はんらを楽しませられるんやろか…) ここは島原。 お客はんに『夢』を見てもらう場所や。 あくまで『夢』やけど、芸事に気持ちが入らん事にはその夢さえも見せられへん… そんなことを思いながら布団から起き上がる。 ふと物音が聞こえ、茉莉花に目をやる。 すると、着物を持って鏡の前でなんや格闘してはった。 「…何してんの?」 「あ…。ごめんね、美桜ちゃん。起こしちゃった?」 手元を睨んどったんをやめて、うちのほうを向く。 「いんや。それより着物、やっぱり着れへんかったか…」 合わせも何も出来ていない茉莉花を見つめながらうちは溜息をつく。 「あはは…。浴衣しか着たことなくって…」 「それも誰かに着せてもろうてたんやろう?」 「……うん」 「しょうのないことや。うちで良かったら教えたるえ?」
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