くだん

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1993年3月。ロシア連邦西部に位置するタタルスタン共和国のある牧場の牛舎で、奇妙な生物が発見された。 体は生まれたての子牛のようであったが、その首から上はヒトにかなり近かった。 黒目がちの瞳、潰れた鼻、薄い唇、小さめの口内にはびっしりと幼児のような歯が生えていた。 微かに毛髪も確認できた。 その恐ろしい生物の出現に、そこの住民たちは戦慄した。 住民たちの要望で、すぐに殺処分される事が決定した。 しかし噂を聞き付けた国の役人が、その生物を引き取り首都モスクワの生物科学研究施設に収容した。 施設内ではこの生物の謎の解明の為、多くの研究者達が尽力したが、特定には至らなかった。 僅かに判明したことは、喉の構造はヒトに近いものではあるが言葉は発さず、また人語を理解する様子も見られないこと。 体内の臓器の形状、機能がヒトと酷似していることだった。 ヒトなのか、動物なのか、或いはその中間に位置する新しい生体なのか、議論は続いたが結論は出なかった。 そして、様々な研究がこの生物に対して行われる中で、驚くべき事が次々と発見された。 その最たるものは、細胞の再生能力の高さと、いかなる環境にも順応する適応力の優良さであった。 その後、この生物は発見された牧場の名前を取り、"オレク"と名付けられた。 2002年。日本の研究チームがウシの未受精卵とオレクの体細胞から体細胞クローンを作ることに成功。 細胞の再生能力等はオリジナルのオレクにやや劣るものの、そのクローンにも大きく引き継がれていた。 日本の研究チームはこの体細胞クローンを、日本の半人半牛の妖怪として知られる"くだん"を由来とし、"KUDAN"と命名した。 翌年、オレクの死亡を確認。死因は不明のままである。
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