第1章

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「あと、もう一つ。言わなきゃいけないことがあるんだ。」 「?」 俺はあたふたしたまま何を言おうとしているかわかり、肩が跳ねた。 「ゆずが今、妊娠三ヶ月なんだ」 「マジか?!先越されたっ!」 結構長い沈黙を破ったのはまた菜々子さんだった。 「母さん、お赤飯炊かないと!」 「あらまあ。そうね、お父さん。」 「ゆずちゃんっ!女の子?」 「男の子?」 なんだか、喜んでもらえているようだ。 とりあえず、ホッと安心した。 やっぱり、堕しなさいって言われるのは嫌だったから。 「まだ性別はわからないよー」 「母さん、ゆずのご飯は消化が良いものを頼むよ。」 あらそうね、と言う淳のお母さんは少し頬を赤らめて少女のようにも見える。 「あとな、男性の妊娠は女性に比べて体調とかメンタルとか不安定なんだ。だから、もしかしたら沢山迷惑かけるかもしれない。俺達だけじゃどうにもならない事があるかもしれない。その時はゆずを頼むよ。」 「お、お願いしますっ!」 二人で頭も下げた。 俺には支えてもらえる実家や親戚はいない。 きっと、この人達にしか頼れない。 「わかってるわ、任せなさいっ!四人も産んでるんだから、なにか相談事とかあればきくよ。」 「あ、ありがとうございますっ!」 やっぱり、淳の家族に伝えるのが不安だったみたい。 こうして、笑顔で会話していることが嬉しい。 本当に、よかった。 「ちょ、ゆずっ!どうした?!なんで泣いてるんだ?」 「へっ?ひっ、ほ、ほんと、だ……。ひっく」 「ほら、大丈夫だから落ち着け。昼ご飯まで寝るか?」 なんか、急に安心したみたいで涙腺が崩壊した。 よかった。 本当によかった。 でも、やっぱり急にこの幸せな時間が消えてしまうのではないかと思ってしまう。 それが怖くて仕方が無い。 大好きな人が増えれば増えるほどに恐怖が募る。 これは、高校時代からの癖で自分でもいけないと思いつつもやめられない。 苦しいな……………。
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