滅亡

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その時には、ドジコの気配を近くに感じていた。 「間違いない。 ここだ。」 いつもより、気配に敏感になっている。 受付の制止を振り切り、気配を便りに、12階まで、非常階段を飛んで上がる。 12階の踊場まで上がると、階段には防火シャッターが降りていて、フロアに入れない。 シャッターを一撃で破壊して、フロアに足を踏み入れた。 薄暗いフロアで、何室かがある。 何も明示がなく、見ただけでは、何のフロアかわからないが、気配で、位置はつかめた。 その部屋の扉を開ける。 ノコギリを手にした数人が、血に染まった顔を、瀬織に、向けた。 部屋は明るかった。 彼らは警察に踏み込まれる前に、証拠を隠滅しようとしていた。 証拠であるドジコを、作業台のようなものの上で解体している。 人間の形はしていなかった。 内臓も、かなり取り去られ、袋詰めにされている。 辛うじて生きているようだが、顔面はつぶれて、目も見えていない。 瀬織は、めまいを感じた。 まばたきの間に、そこにいた数人は部屋の外に放り出された。 放り出した勢いはすさまじく、壁にめり込まんばかりに叩きつけられた。 ほとんどが即死している。 瀬織は、ドジコに話しかけた。 「ドジコ!」 ドジコは、ぱくぱくと、口を動かしたが、言葉はでない。 瀬織の頭は、混乱はしているが、フルに回転している。 状況からすると、いかに瀬織でも、修復できる状態ではない。 命があと、何十分ももたない。 「ここで死なせたら、どのツラ下げて、陣平に会うっていうのよ。 落ち着け、私なら何とかできる。」 瀬織は、それでも電話をかけた。 米本にだ。 「母さん、ドジコに、私の体を譲るから、安全確保を。 時間はない。」 米本はそれで、あらかたの状況をつかんだ。 「警官突入させる。 シズカとスラリが、あと、数分で、つく。 私は40分かかる。」 「7階に。」 瀬織は電話を放り投げた。
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