第1章

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「レイちー、浮かない顔してるねぇ。やっぱりショック?」  管理者用の部屋に入った途端、レイちー――もとい、レイは女性に声をかけられた。予期せぬ来客の不意討ちに一瞬固まるも、レイはすぐに動き始めた。看守として着用が義務つけられているコートを脱ぎ、ソファへと投げる。 「まぁ、ショックですね。あいつは罪人ではないので」  冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注ぎ、レイは女性に手渡す。それから女性の目の前にあるソファへ腰を下ろした。 「しかし、ですね。私を気遣う体で監獄の管理者棟に堂々と入ってくるのは止めてください……ソフィア・ヘルストック様」  レイは女性の名を呼んだ、それは、この国において王位継承者となりうる、国王の娘の名前である。 「ここは王族が来ていいような品のいい場所ではないんですよ。大体ここは関係者以外立ち入り禁止です。あと今更無駄だとは思いますが『レイちー』と呼ぶのは止めてください」 「私はレイちーがいればどこにでもなんとかして行くけど」  レイはわざとらしくため息をつき、それから額に手を当てる。いつものことだ。レイは、ソフィアに、異様なほど気に入られているのだ。 「私のような大して位が高いわけでもない貴族に対してその台詞は非常に嬉しいのですが、あまり軽々しく言わない方がいいですよ」  皇族のお気に入りとなれることは本来喜ばしいことであるが、レイは厄介に思っている。あまり無下に扱うことはできないが、かといって高貴な身分の人間に調子を合わせるのはあまり好きではない――故に厄介。レイは、肩書きで人を評価することを好まない人間である。それが自由奔放なソフィアから好まれている理由であることは気付いていない。 「大丈夫だよ、レイちー以外には言わないし」 「言う相手も考えてください」 「ねぇ、レイちーは今回のこの政策、どう思ってる?」  適当にあしらって上手く失礼の無いように帰らせよう、などと考えながら天井を見ていたレイの肩が一度震えた。目の前でぬいぐるみのように手足から力を抜いて座っているソフィアを、レイが真剣な目で見る。真面目な質問に反して、姿勢からは気品も真剣さも見受けられない。  それでも、レイは少し考えるそぶりをしてから応えることにした。 「……やはり、変ですね。先程も少し言いましたが、罪人ではない人間をここに縛り付けるのはおかしいと思います」
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