第1章

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「別に。ただの皮肉表現よ。ああもう、あいつが少しでも父上に嫌われていれば失脚させられるのに」  怖いことを真顔で言うが、当然ソフィアにそんな権力は無い。彼女なら根回しして罠を仕掛けるぐらいのことはするかもしれないが、それすらも国王に守られているが故に成功させ難いということだろう。 「まぁ、大臣については一度置いておきましょう。それよりも、この政策を取り消す方法を考えてみませんか」  レイはこのまま愚痴を吐かれることは避けたかったので、話を政策の方に戻すことにした。国王がソフィアに言ったことではないが、政治は難しい。その上意見できる人間は限られてくるので、カルル達呪術師を開放するには、ソフィアと共に考えるのが現状において最良の手だった。  ソフィアもその方が有益と思ったのか、ずっと握りしめていたコップを置いた。そして一言。 「おかわり」  水を再度注ぐことを要求してきた。 「………了解です」  レイはコップを持って席を立ち、冷蔵庫から取り出した水を注ぎいれた。 「どうぞ」 「ありがとう」  ソフィアが満足そうな笑顔を見せる。一瞬レイも釣られて口角が上がりかけるが、今は笑う時ではないと思い直して元の場所に座る。 「まあ、政策を取り消したいなら王の一声で変えたいだけ変えられるけど」 「それによる独裁を防ぐための議会です」 「そう。だから当然濫用はできないけど、一度ぐらいならできると思う。国民としても、やりすぎだと思っている人も多そうだし。ただし、この場合の問題は……」 「……ですよね」  今回の政策を打ち出した男は、政治に関しては実の娘よりも国王から信頼されている。この策は使えない。 「というわけで不本意ながら正攻法でいく場合、まず議会を構成する貴族の誰か、というかレイちーが今回の案の取り消し提案する。そこから古典的に多数決で決めることになるけど、この場合の問題は」 「大臣の敵に回ることを恐れる者が多く、多数決にて否決される可能性が高い」  『不本意ながら』『古典的に』といった言葉が少々気になったが、レイはそこに触れずに答えた。ソフィアは無言で頷く。そもそも、大多数が大臣と敵対できるだけの勇気を持っていれば、今回の悪政が始まる前に団結して止める機会が多々有ったはずである。実際、止めようという話は有ったのだが、200人近くいる議員職の貴族の中で、賛同した者は40人もいない。
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