第1章 眠れぬ姫に夜を

2/20
前へ
/150ページ
次へ
「別れちゃった」 貴之(タカユキ)はその一言だけのメールの文面に、小さく溜息を漏らした。 その溜息は安堵から来るものであり、同時にこれから起こるであろう面倒なやりとりを厄介に思う気持ちから来るものでもある。 彼は素早く「迎えに行く」とだけ打ち、携帯を置いた。 これもまたたった一言の返信。しかし、二人にはそれだけで十分だと分かっていた。 このメールと同じく、二人の関係はとてもシンプルなのだから。 返信をしたからには、貴之には今すぐやらなければならないことがある。それは一刻も早く、隣に座る女をこの部屋から追い出すこと。 毎回のことながら、これが厄介で仕方ない。 彼女から連絡がくるのは決まって貴之が別の女といるときで、そんなはずはないと分かってはいるが、狙っているのかと疑いたくなるほどの確率だった。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加