第1章 眠れぬ姫に夜を

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携帯の画面に光る「21:38」という数字。まだバスも電車も時間を気にせずとも運行している時間。 大学も駅も徒歩圏内のマンションでの一人暮らし。誰かを迎え入れるのも、そして追い返すのにも、なにかと便利な場所で、貴之はそれを気に入っていた。 「悪りぃんだけど、帰って?」 「えー、なんで?」 「これから本命が来るから」 本命と言ってもメールの彼女と貴之が恋人関係にあるというわけではない。それでも彼女を表現するには「本命」という言葉が一番適切で、毎回そう伝えるより他はなかった。 そして、貴之がこう告げたときの相手の女の反応は大きく2パターンに分かれる。 激昂して貴之に罵声を浴びせるか、笑顔で応援の言葉を投げかけてくるか。 どの相手に対しても同じように言っているつもりなのに、どうしてこうも違うのか、毎度のことながら貴之には不思議で仕方なかった。
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