第1章 眠れぬ姫に夜を

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割り切った関係しか求めていないことも、誰よりも最優先する相手がいることも、あらかじめ伝えているというのに。それを了承してここまでついてきているはずなのに、なぜ今になって怒るのか、それが理解できない。 貴之にしてみれば、怒られるのは理不尽なことで、それに対しては逆にこちらが文句を言っても良いことだと思えるほどだ。 しかし文句を言ったところで、得られるのは無駄に過ぎ去る時間と焦りだけ。それを知っているから、無駄なことは言わない。 そう、どう思われようと、何を言われようと、部屋から早く追い出す以外の選択肢はない。だから貴之は感情もなく、平然とそれを伝えるだけだった。 そうは言うものの、どうしても相手の反応次第で、動ける時間が大きく変わる。そのことは貴之の悩みの種であり、今回はどちらだろうかと名前もよく覚えていないその女の顔を見つめる。 すると、目の前の女はニッと白い歯を貴之に見せた。
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