第1章 眠れぬ姫に夜を

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ひとりになった部屋で貴之は手早く片付けを始めた。 これは、彼女をこの部屋に迎え入れる準備。他の女がこの部屋にいたという形跡は何一つ残してはいけない。彼女がそんなこと構いもしないとは分かっていても、貴之自身が我慢できなかった。 幸いにも、この手の片付けには慣れていて、5分もしないうちに部屋はいつもの状態に戻ってしまう。 といっても、もともと割箸とコンビニのつまみのゴミとビールの空き缶くらいしかないのだから当然と言えば当然。しかし綺麗に片付いたテーブルは貴之に満足の気持ちをもたらす。 ーーこれでやっと、迎えに行ける。 これから始まる日々を思い、貴之は小さく息を吐いた。 玄関を出て、タイミングよくこの階にいたエレベーターに乗りこむと、やけに甘ったるい香りが鼻についた。 先ほど貴之が追い返した女のものではない。前にも何度か嗅いだことがあるもので、おそらく同じ階の住人のものだろう。
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