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インターホンを押すと、志麻は待ってましたと言わんばかりに玄関から飛び出し、貴之に抱きついた。
その勢いで長く黒い髪がさらりと揺れ、彼女が好んで使っているシャンプーの匂いが香る。
彼女の柔らかい感触と香りに貴之は自然と顔が緩んだ。
「貴之遅いよー!!」
今回はメールが貴之の元に届いてからまだ15分も経っていない。それでも彼女にとっては十分「遅い」ことになるらしい。
身体を離して、ぷくっと頬を膨らませる志麻を見て、貴之は小さく笑った。何も変わらない、いつも通りの志麻であることに安心する。
付き合っていた期間は3ヶ月と長かったものの、今回もまた志麻は恋人と別れたことを何とも思っていない。そのことは、貴之にはとても重要なことだった。
「悪かったって。ほら、行くぞ」
志麻が鍵を閉めるとき、貴之は彼女の持っているトートバッグを手に取り、反対の手を差し出す。
志麻は当然のことのように、貴之の指に自分の指を絡ませ、ぎゅっと握りしめた。
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