第二章 三部

4/22
前へ
/141ページ
次へ
ゴオオオオオ――  バイクを走らせている最中、地面の上で泣き崩れている女の隣を軽快に走り抜ける。女に対する罪悪感は一ミリたりとも芽生えず、逆にうっとうしいと思っていた。  色恋に年上や年下なんて関係ない。空になったお菓子の袋同様、不要になったら廃棄するだけのこと。 『次は無いよ』  ふと、爺の忠告を思い出した。 “次は無い”とは何のことか。うろ覚えなため、本当にそう言ったかどうかはさだかではない。 (呆けた爺の言ったことだ。真に受けない方がいいだろう)  俺は爺の忠告を無視し、そのまま真っ直ぐ家に帰った。 *** 「お前に客が来てんぞ」  玄関のドアを開けると、靴を履いていた兄貴が俺の顔を見て言った。  心なしか、兄貴の口元がにやけている気がする。 「……なんだよ?」 それが堪らなく不快だったので、俺ははっきりと言ってやった。 「言いたいことがあるなら言えばいいだろ」 と。 「可愛いお嬢さんが、お前の部屋でお待ちかねだ」  兄貴の顔は完全に緩んでいる。そして、真っ暗な色をした髪をガシガシと掻き乱し、“がんばれ”と、俺の肩を叩いて家を出た。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

451人が本棚に入れています
本棚に追加