第二章 三部

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「……お嬢さん?」  女を家に呼んだ覚えがない俺は、小首を傾げて考え込む。 彼女もいない俺を訪ねてくる女など居るだろうか。 “マミ”  そう考えていた瞬間、脳裏に浮かんだのはストーカー紛いの女の名前。 ――まさか、来てるのか?  マミという女が部屋に居るのかと思うと、ゾクゾクと全身に悪寒が走る。 「…………」 ゴクリと息を呑み、足音を立てずにそーっと静かに歩く。  部屋の入り口まで、あと数十センチ。心臓はバクバクと激しく暴れ、額や手のひらにはじんわりと汗が滲む。 (一体、どんな女(やつ)なんだ?) 想像すればするほど、女の顔は怖くなっていく。  だが、俺も男。意を決してドアノブに手をかける。 カチャリ――  ゆっくりと開ける扉。次第に姿を見せる女の顔。 「うわあああああああ!!」  その顔を見た瞬間、自分でも信じられないほどの大声が喉の奥から出てきた。  目の前に居るのは女の格好した例の爺。 「あばばばばば」  爺はくりぬかれたような真っ黒な目を俺に向け、ケタケタと笑う。 「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ――」  そして、くねくねと床を這いながらこちらへ迫りくるのだ。
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