第二章 三部

6/22
前へ
/141ページ
次へ
 爺の足が千切れ落ちた。床を引っ掻いていた手も同じ、もげてなくなる。 ずず……ずずず……  芋虫人間が、音を立てて床を這う。 ぎぎ……ぎぎぎ…… 爺の重みで、床が悲鳴を上げる。 「兄貴、兄貴!」  “帰ってきてくれ”と、大きく叫ぶが、頼みの綱である兄貴は先刻出掛けたばかり。お袋は病院、親父は仕事。  家に居るのは、俺一人。 『幽霊より怖いものって知ってる?  それはね、生きた人間だよ』 ベチャッ――  とうとう首がもげた。それでも、爺の頭部はサッカーボールのようにゴロゴロと転がってくる。 「来んな!」  俺は玄関に向かって無我夢中で逃げた。 しかし爺の動きも早く、追いつかれるのも時間の問題。 「あああああああああ――」  やっと玄関にたどり着いたと思った矢先、俺の左足首に爺が食らい付く。 ――痛い痛い痛い痛い。  ないはずの歯がギリギリと肉に食い込み、ブチッと何かが切れたような音が聞こえた。  その瞬間、ドバドバと溢れ出す血液。削がれた肉の下から骨が顔を出している。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

451人が本棚に入れています
本棚に追加