第二章 三部

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 俺は玄関の扉に向かって必死に手を伸ばした。 対象物は目の前にあるのにも関わらず、届かないこのもどかしさ。 それでも手を伸ばし続けるのは、単に助かりたいだけだ。 「ゔうう……ゔうう……」  一向に離れようとしない爺は、警戒心を剥き出しにした犬のように唸っている。 「き、気持ち悪いんだよ!……この!……この!」  俺は爺の頭部を何度も蹴った。蹴って蹴って蹴り続けても、爺は俺の足に食らい付いたまま、目を細めて笑う。 (俺は悪くない!! あいつが、高松が悪いんだ!!)  切迫したこの状態下でも、俺は自分の非を認めない。 認めてしまえば、罪人も同然。警察に捕まるなど、死んでもごめんだ。 「勝手に轢(ひ)かれて死んだんだろうが!!」 と、俺は爺に向かって叫ぶ。 「…………」  当然、爺からの返答は無く、ジロリと此方を睨むばかり。 俺と爺の戦いは無言のまま続く。
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