第二章 三部

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「お前、こんな所で何やってんだ?」  玄関の扉が開くと同時に、野太い兄貴の声が聞こえてきた。 (ああ、助かった……)  ほっと胸を撫で下ろし救いの目を向けると、兄貴は唖然とした顔で俺を見ていた。 「涼みたいなら、さっさと扇風機の前に行け」  俺が大変な目に遭っているというのに、兄貴は他人事の様に笑う。  まあ兄弟と言っても仲が良いわけではないのだが、さすがにこの態度は無い。 (血が繋がってんだろ? せめて、爺をどうにかしろよ!) と、兄貴を睨んだが、奴は涼しい顔をして廊下へ上がる。 「足!足!」  俺は必死に訴えた。 「誰がお前の足なんか揉むかよ」 しかし、返ってきた答えはお門違いの話。論点がまるで合っていない。 「爺がいんだろ!爺が!」 「は? 親父は仕事に行ってんぞ、馬鹿か」 「そうじゃなくて、知らねえ爺が俺の足に噛みついてんだよ!」 「はあ?お前寝ぼけてんのか?  そんなもん、何処にいるんだよ?」  また、兄貴が笑った。まるで、小馬鹿にしたような笑い方にムッときたが、俺はあることに気付く。 ――噛まれていた足に痛みが無い。重みも、あの笑い声も、全てが無い。
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