第二章 三部

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「お前、まだ薬物なんかに手出してんのか?」 「…………」 「もう、高松なんかと連むな。お前はまともになれ。  お袋に心配かけ――」 「うるせえな!! 心配も何も、あいつが弱いから悪い――」  “ゴッ”と、鈍器で殴られたような痛みが、頬を襲う。 握り拳を作った兄貴が、俺の顔を思いっきり殴ったのだ。  瞳孔が開いた、力強い眼。俺を見下ろす兄貴の顔が般若面の顔と重なる。 「……殺すぞ?」  うなり声を上げた兄貴が、右手の拳を振り上げて言った。  あの目は、間違えなく本気で言っている時の目だ。 人に恐れられていた時代の兄貴が俺の前に姿を現す。 (やべえ……)  本気で立ち向かっても敵うような相手じゃない。かといって、黙っているわけにもいかず、どうしようかと思い悩む。 ギィ……  額に汗を滲ませそれらしい言いわけを考えていると、家の奥から物音が聞こえた。  そういえば、『俺の部屋に女が来ている』と、兄貴が言っていた。 たぶん、その女の足音に違いない。次第に近付いてくる。 「どうかしたんですか?」  真後ろから聞こえたのは、小鳥の鳴き声のような清んだ声。振り返れば、白いワンピースを着た可愛らしい顔の少女がそこにいた。
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