第二章 三部

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「……あれ?」  重たい瞼を上げると、辺りは暗闇に包まれていた。カチカチと音を立てる時計の親針は七時を指している。  いつの間にか眠ってしまっていたらしい。  気怠い身体を起こし、グッと背筋を伸ばす。すると、“ゴキゴキ”と、関節が音を立てた。 *** 「くそっ、俺の数少ねえ生活費が~」  真っ暗な廊下を歩いていると、リビングの扉から明かりが漏れていた。そこから聞こえてくるのは、兄貴の泣き言。 大工の見習いである兄貴の給料はスズメの涙程度で、常にかつかつの生活をしている事は弟の俺でも知っている。 「なん、またガラス割られたん?」  ソファーの上でうなだれている兄貴の姿がなんだか笑える。 兄貴にバレないように小さく笑っていると、奴はムクッと上体を起こし、此方を向いた。 「笑ってんじゃねーぞ。こっちは死活問題なんだからな! 俺のVT(単車)の改造費があ~!!」  まるで、俺が悪いとでも言いたそうな口振り。内心ムッときたが、俺は笑顔でこう言った。 「ドンマイ」 と。
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