第一章 一部

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「また頼むわ──ATM君」  俺は薄ら笑いを浮かべ、財布を地面へと放る。 「あ……ああ──」  すると、目に溢れんばかりの涙を溜めた男が、慌ててふためいたように財布を拾い上げた。地面に跪(ひざまず)き、財布を抱いたまましゃっくりを上げて泣く姿はなんとも惨め。 「おっと、足元が狂った」 わざとらしく男を蹴り飛ばした恭輔が意地悪く笑った。 ドサッ……  運悪く頭を蹴られた男が、音を立てて地面に倒れ込む。なんとも情けない姿に、俺も、太一も、そして恭輔も笑った。  しかし、男が起き上がってくる気配はない。ピクビクと男の身体は小刻みに震えており、締まりのない口からダラダラと涎が流れ出ている。 「……やばくねえか?」  男の顔を覗き込んだ太一の顔がどんどん青ざめていく。 始めはゲラゲラと笑って見ていた俺と恭輔も、あんまりにも男が起き上がらないので危機感を抱き始めた。  きっと男は、『脳震盪(のうしんとう)』を起こしてしまっている。だが、この男から金を巻き上げてしまっている為、人を呼ぶに呼べない。
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