第二章 三部

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「は……なせ――」 ドンッ  俺は、相手の腹に向かって思いっきり肘(ひじ)打ちををした。  途端に首を絞める手が緩み、うーうーとうめき声が聞こえてくる。 ざざ……ざざざ…… 相手の靴底が地面を擦る音。 「赤ちゃんが……赤ちゃんが……」  そして、苦しそうな女の声。 振り向けば、白いワンピースの女がお腹を押さえ、地面の上にしゃがみこんでいる。  間違いなく、こいつが『マミ』だろう。 「……大丈夫か?」 たとえそうだとしても、苦しむ女を放ってはおけない。  ほんのわずかに残っていた、俺の良心だ。 「…………」  女は唸るばかりで返事をしない。 (やりすぎたか……) と、思いつつ、女を担ぎ上げる。  なぜそうしてしまったのか、自分でも分からない。 “こいつは、ストーカーかもしれないんだぞ?” 心はそう忠告しているのにもかかわらず、それを無視し、速歩きで家路をたどる。
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