第三章

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『俺も見ました』 とは、言えなかった。 何故なら、その事を口にしてはいけないような気がしたからだ。  第一、首だけの爺に噛みつかれたなど誰が信じようか。笑われるのが落ちだと、俺は思う。 ベチンッ――  突然、音を立てる車。何気無く音のした方を向けば、フロントガラスに黒い何かがベッタリと貼り付いている。 「うわあああああ」  木山さんが悲鳴を上げた。 「なん――、うわっ!!気持ち悪!!」 続けて、高松さんも。 “急にどうしたんだ?” と、戸惑っていると、突如、車体が大きく揺れ始めた。 「ハンドル!ハンドル!」  気が動転している木山さんの代わりに、高松さんが横からハンドルを操作。 何とか体勢は立て直したものの、スピードが落ちない。 「ブレーキ踏め!」  高松さんが大きく叫んだが、木山さんは無反応。と、いうより、気絶しているように見える。 パアアアアアア――  木山さんの額がハンドルにぶつかり、辺りに轟くクラクション。 焦った高松さんが、素早くサイドブレーキを引いたが、スピードが落ちただけで車は止まりやしない。
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