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右へ左へと、大きく揺れる車体は、車の間を縫うように走っていく。
「木山の足を蹴飛ばして、ブレーキ踏んだらどうだ?」
生死をさ迷うこの状況の下、皆は完全にパニックになっているというのに、何故か冷静な安藤さん。
彼は死ぬのが恐くないのか、汗一つ掻いていない。
「お、おう!」
こくりと頷いた高松さんは、咄嗟に木山さんの右足を蹴飛ばし、ブレーキペダルを踏み込んだ。
キイイイイイ――
激しい揺れと共に、甲高いブレーキ音が辺りに轟く。突然止まったことにより、俺は窓枠に右肩をぶつけた。
隣の太一は、前のシートに額を強打。他の皆も、少なからずとも負傷している。
しかし、安藤さんだけは違った。
いつの間にシートベルトを閉めたのか、彼は涼しい顔で座っている。
そして、訊くのだ。
「大丈夫か?」
と。
(……白々しい)
一人だけ助かろうとしていた彼を見て、俺は真っ先にそう感じた。
なぜなら、彼もまた俺と同じで『嘘吐き』の臭いがするからだ。
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