第三章

7/21
前へ
/141ページ
次へ
 右へ左へと、大きく揺れる車体は、車の間を縫うように走っていく。 「木山の足を蹴飛ばして、ブレーキ踏んだらどうだ?」  生死をさ迷うこの状況の下、皆は完全にパニックになっているというのに、何故か冷静な安藤さん。 彼は死ぬのが恐くないのか、汗一つ掻いていない。 「お、おう!」  こくりと頷いた高松さんは、咄嗟に木山さんの右足を蹴飛ばし、ブレーキペダルを踏み込んだ。 キイイイイイ――  激しい揺れと共に、甲高いブレーキ音が辺りに轟く。突然止まったことにより、俺は窓枠に右肩をぶつけた。 隣の太一は、前のシートに額を強打。他の皆も、少なからずとも負傷している。  しかし、安藤さんだけは違った。 いつの間にシートベルトを閉めたのか、彼は涼しい顔で座っている。 そして、訊くのだ。 「大丈夫か?」 と。 (……白々しい)  一人だけ助かろうとしていた彼を見て、俺は真っ先にそう感じた。 なぜなら、彼もまた俺と同じで『嘘吐き』の臭いがするからだ。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

451人が本棚に入れています
本棚に追加