第三章

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 その夜、お袋は死んだ。 普通病棟に戻されたその日にシーツで首を吊ったらしい。  病室のベッドの上で眠るお袋の顔は痩せこけ、腕は骨のように細い。 変わり果てた姿の母親を前に、俺は思わず泣きそうになった。 『個室にしなければよかった』  隣にいる親父はそう嘆き、お袋の身体を強く抱き締める。二人の馴れ初めは知らないが、親父は本気でお袋を愛していたようだ。  一方、兄貴は終始無言でお袋を見つめている。そして、俺に言った。 「なぜ見舞いにいかなかった?」 と。 親父は“お前のせいじゃない”と、俺を慰めるが、お袋が俺に会いたがっていたのは紛れもない事実。 首を吊ったお袋の足元に落ちていたくしゃくしゃの紙には、震えた字で、 『晴輝に会いたい』 そう書かれていたそうだ。  入院してから一度も見舞いに行かなかった俺は、自分自分を責めた。 『なぜいかなかった、なぜいかなかった』 と、拳を握りしめ、何度も呟く。
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