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「退け!!」
どれ程、恭輔と揉み合ったか分からない。地面の上で転がりながら殴りあっていると、ちょうど恭輔の真上に乗った瞬間、激しい衝撃が右肩を襲う。
「──っ!!」
ふと正気に戻った時には、もう地面の上。身体中に感じる痛みに堪えて身体を起こすと、今まさに恭輔の上に馬乗りした高松さんが拳を降り下ろす瞬間だった。
「ふっ──ぎゃああああ!!」
彼のパンチはまるで弾丸のように早く、そして重い。一瞬時間が止まったかのような錯覚に陥った直後、豚の鳴き声に似た悲鳴が近隣に響き渡る。
雑木林に囲まれた廃墟はスピーカーの代わりを果たして、ワンワンと悲鳴を遠くまで轟かせる。
もし仮に通りすがりの人がこの声を聞いたとしても、思わず耳を塞ぎ逃げ出すだろう。
それほど恭輔の悲鳴は凄まじく、俺達の心に恐怖の種を植え付ける。
蜂の大群に襲われた直後のように顔がパンパンに腫れ上がった恭輔は、声も出さずに泣いていた。
泣きながら垂れ流す、赤い鼻水と赤い涙。小さな口から覗く歯は殆どない。
すべての責任は俺にはないが、強い罪悪感が胸を支配する。
“あの時俺が取り返していれば”
そう思うと、酷く心臓が暴れる。
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