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この時、恭輔はまだ息をしていた。
ヒューヒューと聞こえる小さな呼吸の音が、奴が生きている事を証明している。
しかし、誰一人として恭輔を助ける者はいない。それどころか、今にも息絶えてしまいそうな恭輔を完全に放置して、建物の中へと入っていく。
「ハル、早く来いよ」
高松さんに恐怖して退いていたはずの太一も、涼しい顔で俺を呼んでいる。
「先行っててくれ」
「は? なんで?」
「少し休んでからいく」
「ふーん、分かった」
とてもじゃないが、俺は皆と一緒に酒を呑む気にはなれなれなかった。
目の前で人が死にかけているというのに、先輩達や友人、そして親友でさえ何もしないというのは、人として何かが欠けている。
かと言って、いまさら恭輔を助けようと言う気なんて更々起きなかった。
確かに、俺にとっての恭輔は友人の中の一人だ。だが、高いリスクを背負ってまで助けたいと思えるような間柄じゃない。と、俺はこの場ではっきりと言える。
なぜなら、俺は恭輔が嫌いだ。ゴミに集る汚い生物と同じくらいに。
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