第二章 一部

8/20
前へ
/141ページ
次へ
 団地を出て少し行った所にある抜け道を通っていると、遠くの方で小さな人影が見えた。  近付くにつれ、定まってくるその者の容姿。白髪頭のみすぼらしい格好をした爺(じじい)だ。  ここは、バイクが並んで通れない程の狭い道。しかし、道のど真ん中に立っている爺さんは、クラクションを鳴らしても端へ避けるような素振りすら見せず、こちらに背を向けている。  あまりにも爺さんが避けないので、俺は仕方なくブレーキをかけた。 キィィイイ──  鼓膜をつんざかんばかりのブレーキ音。タイヤが、ザザザと地面を擦る。 「避けろよ、ジシイ!!」  ギリギリの所で止まる単車。俺は単車のわずかな振動を肌に感じつつ、爺さんの背中向かって叫んだ。 「…………」  声も出さずに振り向いた爺さんは頬が痩せこけ、骸骨(がいこつ)のような気味の悪い顔立ち。俺に向かって何か言うつもりなのか、乾いた唇をプルプルと震わしている。 「なんだよ? 言いたいことがあるなら、さっさと言え」  時間がないのもそうだが、爺の態度がどうもいけ好かない。俺は威嚇(いかく)するようにエンジンを吹かし、爺を急かす。 「恐ろしや……恐ろしや──」  すると爺は、念仏に似たようなものを唱え始めた。  爺の口から出た低い掠れ声はあまりにも気味が悪く、俺はゾクゾクとした寒気を背中に感じ、身を震わす。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加