第二章 一部

9/20
前へ
/141ページ
次へ
「ヒトコロシ、フタコロシ──」  訳のわからない言葉を発する爺は細い人差し指で俺を指差すと、クツクツと喉を鳴らし笑った。  まさに、死神を見ているようだった。  爺の言葉が何を意味するのか分からないが、とても生きている人間の様には見えない。  まるで、幽霊。まるで、幻。 (あほくさ) ──この爺さんは呆けているだけ。言葉にはなんの意味もない。  俺は単車を走らせ、爺と壁の間を無理矢理通り抜けた。  通り抜ける際、爺の身体に肘が当たったのにもかかわらず、痛みすら感じなかった。 ただ、肌に感じたのは冷たい風だけ。  抜け道の出口へ差し掛かった頃。ふと後ろに違和感を感じ振り向くと、例の爺が単車の尻にしがみついていた。 ギイ……ギイ…… 不自然に音を立てる単車。 「ははははははははは」 爺は永遠と笑い続けるばかり。 「ひっ──」  突然のことに驚き悲鳴を上げそうになったが、ギリギリの所で止まり、俺は一心不乱に単車を走らせる。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

450人が本棚に入れています
本棚に追加