第二章 一部

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「じゃあ──」  鉄筋を握りしめたクロさんが女に近付く。直後、何かを突き破るような音が聞こえたが、女から目を背けていた為、うまく状況が把握出来ない。 「ひっ……ぎゃあうああああ──」  思わず耳を塞ぎたくなるような金城り声が廃墟中に響き渡る。 「うるせえっ!!」 あまりの煩(うるさ)さに機嫌を損ねた高松さんが、女の顔を思いっきり殴った。 (……ああ、終ったな)  この時点で、この女の死は確定したようなもの。 内股から垂れ落ちる赤黒い液体。薄暗い証明に照された女の顔は涙でグシャグシャ。  俺はその女が気の毒に思えた。 なにせ、ここへ来た時の彼女は『子供が好きだから保母さんになりたい』と、嬉しそうに夢を語っていたのだから。 「あ~、気が変わった。めんどくせえ女は、今すぐ始末しよう」  案の定、高松さんが“女を殺す”と、言い始めた。 「だず……で、がぞ……るの──」  女は必死に命乞いをしているが、そんな泣き言が高松さんに通用する訳がない。 「あー? 今なんか聞こえたかあ? 聞こえねえよなあ」  わざとらしく訊く高松さんは誰の返事も訊かず、いつも携帯しているバタフライナイフを右手に握りしめ大きく振りかざす。そして彼は、女の心臓目掛け一気に降り下ろした。
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