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「俺が家に帰ってきた時、血だらけのまま台所で倒れてたんだよ。どうやら、包丁で手首を切ったらしい」
「……え」
兄貴が何を言った事を理解するのに、少し時間がかかった。
「━━自殺?」
俺は“信じられない”と、兄貴の顔を直視。しかし、当の兄貴は、「お前が悪い」と言うだけで全く埒が明かない。
お袋が倒れたという現場を見に行くと、その場所は綺麗に片付けられていた。しかし、よく見ると血痕のようなものがうっすと床に残っている。
兄貴が言っている事は、紛れもない事実。そして、こうなった原因は俺にある。
「今は病院で休んでいるから、お前は心配しなくていい」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、親父はポンポンと俺の肩を叩いた。
「ああ……」
お袋が自殺を図った事が分かった途端、身体の力がどっと抜けて行く。
不思議と涙は出ない。けれど、何かをしようという気は起きない。
「寝る」
まだ何かを言いたそうにしている兄貴はジロジロと俺を見ていたが、無視して部屋へ入る。
俺に何を言えというのだ。今更謝罪した所で、全ての罪が無かったことになる訳ではない。
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