第二章 二部

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(目玉焼きを不味くできるなんて、ある意味天才だ。) と、密かに思いつつ、俺はご飯と味噌汁だけ口へ運ぶ。 (お袋の作った朝飯が食べたい)  そう感じたのはこれが初めて。『朝飯はお袋が作るものだ』と信じ込んでいた俺は、改めてお袋が居ることの有り難みを知った。  だが、病院へ行く事は些か気が引ける。確かに罪悪感を感じてはいるものの、手首を切った程度で入院など大袈裟ではないだろうか。  第一、あの雰囲気と臭いが嫌いだ。病院特有の、薬品臭さ。シンナーを吸いまくっている俺が言うのも何だが、臭いが酷すぎて長居すら出来ない。 「一人で行くんだろ」 「は? お前も連れて行くに決まってるだろ」  もう、俺が行くことは決まっているようだ。 食器を流しへ下げた兄貴は、“早くしろ”と、俺を急かし台所から出ていく。 「……ああ」 と、頷いて答えはしたものの、俺は病院へ行く気など更々ない。  兄貴にバレないよう静かに食器を下げ、そのまま忍び足で玄関の外へ出た。
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