第二章 二部

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(こんな暑い中で、ビラを配ってやったんだ。恭輔、感謝ぐらいしろよ)  ビラを配っている最中。俺は自分が犯した罪の重さを忘れ、その事ばかり考えていた。 『“息子を殺した犯人とビラを配る”ってどんな気持ち?』  その事を、隣にいるおばさんに訊きたくて仕方ない。 (どんな顔をするのだろうか。━━やっぱ、泣くかな)  どんどん膨らむ妄想。 あの世で“母ちゃん、母ちゃん”と、べそを掻く恭輔の姿を想像すると、笑いが込み上げてくる。  世の中の人間は、俺の事を『人殺し』だと言って罵るのだろう。  しかし、それは大きな間違い。  恭輔を焼却炉にまで運んだのは誰だ? 灰になるまで燃やしたのは誰だ? 雑木林まで灰を運び、跡形もなくばらまいてやったのは誰だ?  殴られた程度で死ぬ奴が悪い。 そもそも、自分の失敗でそうなったんだろ。 人を憎まず自分を恨め。運が悪かった━━と。
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