第二章 二部

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「……帰れ」  渋い顔をした重森が、蚊の鳴くような声で言った。 「はいはい、サヨウナラッ!」  先程とは打って変わって弱腰な態度を取る重森を前にして調子づいた俺は、ふざけた口調で奴を茶化す。 「…………」  しかし、重森はピクリとも反応を示さず、ただただ俺を睨むばかり。だからこそ、気分が良かった。 『重森を言い負かした』 と。  猫の事などすっかり忘れ、心が浮き立つ。生徒指導室から昇降口にまでの足取りは軽く、あっという間に自身の靴箱の前へ。  そこにはもう猫の遺体はなかった。  誰かの手で片付けられた下駄箱は、元の姿に戻っている。それに加え、俺の名前の下に書かれていた『マミ』という名前も、跡形もなく消えていた。  まるではじめから何も起きていなかったかのようで、しんと静まり返った昇降口が逆に怖かった。
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