第二章 三部

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「……え?」  顔を上げた女が、目を丸くして俺を見た。 『何言ってんの』 そう言いたそうにしている彼女の顔は汗で化粧が剥がれ落ち、グシャグシャ。  まるで妖怪。まるで化け物。 「お前、キモいな」 俺は女の顔を指差し笑った。 「ひどい!!」 “パシンッ”と乾いた音がした直後、頬に感じる痛み。女は俺を引っ叩き、着衣を乱したままの状態で飛び出して行く。 「酷いのはお前の顔だよ」 俺はふんっと鼻を鳴らし、制服を正して待合所から出た。 「来ないで!!」  何を勘違いしたのか、遠くの方で女が叫ぶ。 「はあ?」 別に追いかけているつもりは無い。ただ、帰り道が一緒なだけ。 「好きなのに!!」  また、女が叫んだ。 「あっそ」 「あんたも私の事好きなんでしょ!?」 「別に。俺達“セフレ”だろ?」 「――――」  女はまだキーキー喚いているようだが、よもやどうでもいい。 「勝手に言ってろ」 その言葉を最後に、俺は止めてあったエイプに跨がった。
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