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自慢じゃないけど、わたし、今まで『莫迦』なんて言われたことない。
ウチの両親、ちっちゃい時からわたしを執事やメイドさんの使用人に任せて放任してたから。
その分、一緒にいる時は極甘で、口が裂けてもそんなコト言わないし。
今まで『莫迦』って言われるほど、悪い成績をとったことないからなんだけれど。
本当の理由は、ね。
天下の『西園寺家令嬢』に面と向かって『莫迦』って言えるほど度胸のある人なんていなかったからだ。
わたしに向かって、お世辞は言えても、悪口なんて絶対無理、みたい。
だから、今。
産まれて初めて『莫迦』って言われて腹が立つ、って言うよりは、とても驚いて……なんだか嬉しかったんだ。
だって、ほら。
西園寺じゃない、『普通の女の子』にちょっと近づけた気になって……
「……莫迦って言われて、楽しそうに笑う女、初めて見た」
呆れた声で宗樹に言われ、わたしはあたふたと頭を下げた。
「あ……えっと、すみません!」
「こんなとこで、お前が謝ってんじゃねぇよ。
くそ、調子、出ねぇなぁ」
今さっき感じた氷みたいなトゲトゲの視線が少し弱まったかわり。
宗樹は、今日が世界の終わり、みたいなため息を深々と吐いた。
うぁ。
ため息のつきかた、爺とそっくり。
なんかのダブル攻撃をくった気分だ。
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